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第1章 61 死の大地を越えて

last update Last Updated: 2025-08-22 11:08:02

 『クリーク』の町を出て、2時間――

ガラガラガラガラ……

馬車は長年続く干ばつにより、ひび割れてしまった悪路が続く大地を走っていた。

「王女様……今迄こんなに乗り心地の悪い馬車で旅を続けられていたのですか?」

ガタガタと揺れる馬車の中、向かい側に座ったトマスが青ざめた顔で尋ねてきた。

「ええ、そうよ。でも今迄走ってきた場所はここみたいに足元が悪い道じゃ無かったから、こんなに酷くは揺れなかったけど」

「確かにそうですね。ここまで酷い揺れはありませんでした。下手に話をすると舌を噛みそうですよ。これなら馬の上に乗ってる方がマシかもしれませんね」

リーシャは顔をしかめながら窓の外を見た。

相変わらず馬車に乗る兵士たちに緊張感は感じられない。

……本当にユダが懸念する通り、敵がいるのだろうか?

するとその時、馬車の後方で馬にまたがっていたユダと目があった。

しかし、何故かユダはパッと目をそらせてしまう。

まただ。

昨夜からユダの様子がおかしい。いつもなら出発する際、声をかけてくるのはユダだったのだが、今朝に限ってはヤコブが声をかけてきたのだ。

一体ユダはどうしてしまったのだろう?

それとも本当は彼が私を裏切る者なのだろうか? それでやましく感じて私から遠ざかっている……?

「クラウディア様、どうされましたか?」

突然リーシャに話しかけられた。

「え? 何が?」

「いえ……先程からいつもと様子が違うように見えましたので。もしかして気分が悪いのですか?」

「い、いえ。別にそういうわけでは……」

「そうですよね? この辺りはあまりにも悪路です。トマスさんも限界みたいですし、休憩を取ってもらうように言いましょう」

「でも、ここは休憩する場所なんて無いわよ」

窓の外から様子を伺ってもどこまでも乾いた荒野が広がっている大地には、ところどころ巨大な岩が点在するのみで、馬車を止めて休めるような場所はどこにも見当たらない。

「確かにそうですよね……」

リーシャはため息をついた。

『クリーク』から次の村『シセル』に行くには【死の大地】と呼ばれるこの場所を通らなければならない。

この辺り一帯は不思議な場所で、1年を通して雨が降ることはほとんどない。当然水脈等あるはずもなく、大地は干からびている。その為、大量の水を持って移動しなければ当然通り抜けることは不可能な場所だ。

現に私達も2台の荷馬車の
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